2013年9月22日日曜日

WSMLアンテナ 2つのループを使う場合

前回は WSMLアンテナ を1つのコイル(ループ)として考察しました。

それでは、2つのループの場合はどうでしょうか。同じインダクタンスを持つ2つのループを並列接続したとき、その合成インダクタンスは(相互インダクタンスの影響が無ければ) 1/2 になります。 ループの並列接続によってインダクタンスを低減できれば、 S/L 比は大きく向上し誘起電流の増加が期待できます。

2つのループを並列接続したときの実際の合成インダクタンスは、ループ「配置」や「接続方法」によって、どのように変化するのでしょうか。今回は、この2つのループの合成インダクタンスを実験で確めてみました。



実験に使用するループについて

今回は、前回の実験(3月)の反省を踏まえて、同じサイズのループを使用しました。
(前回の実験では大きさの違うループを使ったので、効果がわかりにくい結果でした。)

  • ループの大きさ:直径 0.58m
  • ループの材料:アルミ・フラットバー(長さ1820mm、幅20mm、厚さ2mm)

今回使用したループの大きさは、前回使用したものより若干小さくなっています。これは材料の入手事情によるものです。

前回使用した直径 0.64m ループと同じものを追加製作するため、アルミ・フラットバー(長さ2000mm、幅20mm、厚さ2mm)を近くのホームセンターへ材料の買出しに出かけましたが、あいにく、(幅20mm、厚さ2mm)アルミ・フラットバーの店頭在庫品は、長さ 1820mm のみでした。

他に(幅20mm、厚さ3mm)アルミ・フラットバーなら、長さ 4000mm の在庫があったのですが、板厚 3mm で直径 1m 以下のループを製作するとなると、硬くて曲げ作業が困難に思えました。悩んだあげく(長さ1820mm、幅20mm、厚さ2mm)を購入しました。前回の直径 0.64m ループは無駄にできないので、再加工して直径 0.58m に寸法を修正して使用しています。

ところで、この 1820mm は中途半端な長さに思えますが、ちょうど 6尺=1間「けん」の長さです。材木などの建築資材と同ようにアルミ材も尺モジュールに合わせたものがあることを知りました。


実験の様子です。ループ間隔の位置合わせが容易にできるように、作業机の上にループをクランプで固定しました。 インダクタンスの測定は APB-1 と自作リターン・ロス・ブリッジを使っています。

下記のループの組み合わせで実験を進めていきます。

  • シングル・ループ
  • 平行配置
    • 「平行配置ー平行接続」
    • 「平行配置ークロス接続」
  • 8の字配置
    • 「8の字配置ー平行接続」
    • 「8の字配置ークロス接続」


シングル・ループ

はじめに、計算の基準となる2つのループ「L1」「L2」(直径0.58m)を測定しました。

下図中の黒い丸印は巻き始め位置を表しています。(シングル・ループの場合は、巻き始めの位置に意味はありません。)


測定結果

2つのループ(L1, L2)のインダクタンスを測定しました。
測定周波数: 0.3MHz, 10MHz(9.9), 20MHz(19.8), 30MHz(29.7)

下の表は(L1, L2)のインダクタンス測定値です。

測定したインダクタンス値のグラフです

L2 を測定したときの、 APB-1 のインピーダンス・アナライザ・モードのスクリーン・ショットです。

  • 赤色のグラフはインダクタンス、スケールは左側です。
  • 青色のグラフはインピーダンス、スケールは右側です。
  • グラフ右上のリードアウトは、上段が測定周波数とインダクタンス、下段が測定周波数とインピーダンスです。
  • リードアウトの数値はグラフに交差するカーソルの位置(矢印部分)の値を表しています。
  • リードアウトの文字色は、グラフ色と同一ではありません。

L1 のスクリーン・ショットは、L2 で上書きしてしまったので残っていませんが、L2 とほぼ同じでした。


測定結果から

同じサイズ(直径0.58m)で製作した2つのループ(L1、L2)のインダクタンスは、ほぼ同じ値でした。
このループを使用して実験を進めていきます。



「平行配置ー平行接続」

「平行配置ー平行接続」とは、平行に配置した2つのループの、巻き始め側と巻き始め側、巻き終り側と巻き終り側を接続した状態です。
下図中の黒い丸印は巻き始め位置を表しています。


測定結果

ループ間隔と周波数を変えてインダクタンスを測定しました。
ループ間隔: 0.05m, 0.1m, 0.2m, 0.3m, 0.4m, 0.5m, 0.6m
測定周波数: 0.3MHz, 10MHz(9.9), 20MHz(19.8), 30MHz(29.7)

下記の表上段はインダクタンスの測定値( Lt )、表下段は相互インダクタンス( M )です。
相互インダクタンスは計算値です。合成インダクタンスの測定値から下記の式を使って計算しました。

コイル記号の黒い丸印は巻き始め位置を表しています。

左のグラフは測定したインダクタンス( Lt )、右のグラフは相互インダクタンス( M )です。

上記の測定後に、ループ間隔を変えてパーシスタンス表示で記録しました。


測定結果からわかること

「平行配置ー平行接続」は、

  • 2つのループを貫く磁束が同一方向になるため、ループが和動的に結合している。
  • ループ間の結合が大きく、相互インダクタンスが大きい。
  • 2つのループの間隔 0.3m を中心にインダクタンスの変化を見ると、さらに間隔が近づく方向ではインダクタンスが上昇し、また離れる方向でもインダクタンスが上昇する。
  • ループ間隔を変えたときのインダクタンスへの変化は、15MHz 以下では変化が少なく、15MHz 以上では変化が少し大きい。
  • ループの間隔や周波数によってバラツキがあるが、この組み合わせの合成インダクタンスの値はシングル・ループのインダクタンスに対して、およそ 0.6倍 ~ 0.8倍 の大きさに減少する。

磁界の変化によって2つのコイルに誘起する電流の和 It は、L1 に流れる電流 I1 と、L2 に流れる電流 I2 の和ですから、It = I1 + I2と表すことができます。したがって「平行配置ー平行接続」は、誘起電流が増加する組み合わせであるといえます。



「平行配置ークロス接続」

「平行配置ークロス接続」とは、平行に配置した2つのループの巻き始め側と巻き終り側を、互いに交差するように接続した状態です。

下図中の黒い丸印は巻き始め位置を表しています。


測定結果

ループ間隔と周波数を変えてインダクタンスを測定しました。
ループ間隔: 0.05m, 0.1m, 0.2m, 0.3m, 0.4m, 0.5m, 0.6m
測定周波数: 0.3MHz, 10MHz(9.9), 20MHz(19.8), 30MHz(29.7)

下記の表上段はインダクタンスの測定結果( Lt )、表下段は相互インダクタンス( M )です。
相互インダクタンスは計算値です。合成インダクタンスの測定値から下記の式を使って計算しました。

コイル記号の黒い丸印は巻き始め位置を表しています。

左のグラフは測定したインダクタンス( Lt )、右のグラフは計算した相互インダクタンス( M )です。

上記の測定後にループ間隔を変えながら、パーシスタンス表示で記録しました。
見やすくするために縦軸の L と Imag のスケールを拡大しています。


測定結果からわかること

「平行配置ークロス接続」は、

  • 2つのループの磁束が向かい合う方向になり、ループが差動的に結合している。そのため、磁束を打ち消し合う関係になる。
  • ループ間隔の変化によるインダクタンスの変化が大きく、相互インダクタンスの変化も大きい。
  • ループ間隔を狭くするとインダクタンスが減少し、相互インダクタンスも減少する。
  • ループの間隔や周波数によってバラツキがあるが、この組み合わせの合成インダクタンスの値はシングル・ループのインダクタンスに対して、およそ 0.4倍~ 0.8倍 の大きさに減少する。

この2つのループは、次のような関係になっていると考えられます。

  • 向かい合うループの磁束が打ち消しあう
  • 逆起電力により電流が減少する
  • 磁束の大きさが減少する
  • インダクタンスが減少する
このように合成インダクタンスは大きく減少しますが、ループの誘起電流も同じように減少してしまいます。

磁界の変化によって2つのコイルに誘起する電流の和 It は、L1 に流れる電流 I1 と、L2 に流れる電流 I2 の和ですから、 It = I1 - I2 と表すことができます。したがって「平行配置ークロス接続」は、誘起電流が減少する組み合わせであるといえます。 インダクタンスが低下して S/L が向上しても、誘起電流が減少するのは良くありません。



「8の字配置」

「8の字配置」とは、上下にループを配置した状態です。2つのループは同一平面上にあり、ループ(水色)は、ループ(灰色)を同一平面で 180 度回転させた関係になります。

「8の字配置ー平行接続」は、
8の字に配置した2つのループを、巻き始め側と巻き終り側を、互いに接続した状態です。(下図左側)

「8の字配置ークロス接続」は、
8の字に配置した2つのループを、巻き始め側と巻き始め側、巻き終り側と巻き終り側を、互いに接続した状態です。(下図右側)
これは原典の 「パラレル・クロスド・ループ」 と同じ接続状態です。

下図中の黒い丸印は巻き始め位置を表しています。


測定結果

周波数を変えてインダクタンスを測定しました。
測定周波数: 0.3MHz, 10MHz(9.9), 20MHz(19.8), 30MHz(29.7)

下記の表上段はインダクタンスの測定結果( Lt )、表下段は相互インダクタンス( M )です。
相互インダクタンスは計算値です。合成インダクタンスの測定値から計算しました。

左のグラフは測定したインダクタンス( Lt )、右のグラフは計算した相互インダクタンス( M )です。

「8の字配置ー平行接続」

「8の字配置ークロス接続」


測定結果からわかること

「8の字配置ー平行接続」と「8の字配置ークロス接続」は、

  • 同一平面上にループが配置されているので、互いの磁束の影響が少なく、相互インダクタンスが小さい。
  • 接続方法が異なるので相互インダクタンスの極性に違いはあるが、インダクタンス特性はどちらも良く似ている。
  • この組み合わせの合成インダクタンスの値は、シングル・ループのインダクタンスに対して、およそ 0.5倍 ~ 0.6倍 の大きさに減少する。
  • 他の組み合わせと比較すると、周波数によるインダクタンスの変化は起伏が小さく 「かなり平坦」 である。

磁界の変化によって「8の字配置」の2のコイルに誘起する電流の和 It は、次のように分類できます。

  • 「8の字配置ー平行接続」は「平行配置ークロス接続」と比較すると、電気的に同じ回路になることがわかります。合成される誘起電流 It は、L1 に流れる電流 I1 と、L2 に流れる電流 -I2 の和ですから、It = I1 - I2と表すことができます。
    したがって「8の字配置ー平行接続」は、誘起電流が減少する組み合わせであるといえます。
  • 「8の字配置ークロス接続」は「平行配置ー平行接続」と比較すると、電気的に同じ回路になることがわかります。合成される誘起電流 It は、L1 に流れる電流 I1 と、L2 に流れる電流 I2 の和ですから、It = I1 + I2と表すことができます。
    したがって、「8の字配置ークロス接続」は、誘起電流が増加する組み合わせであるといえます。



インダクタンス測定値から電流比を計算する。

ループ面積とインダクタンス測定値から、ループのそれぞれの組み合わせ毎の電流比を計算します。 この計算には、10MHz(9.9MHz)のインダクタンス値を使用しました。


直径0.58m ループ単体と、2倍の面積を持ったループの組み合わせとの比較。

下表は、直径0.58m ループ単体の誘起電流の大きさに対して、直径0.58m ループを2つ組み合わせたときの電流比の計算結果です。
表の内容は上から順に

  • 「平行配置ー平行接続」の電流比。
  • 「平行配置ークロス接続」の電流比。
  • 「8の字配置ー平行接続」と「8の字配置ークロス接続」の電流比。
となっています。

上の表からは、「8の字配置ークロス接続」の電流比は 2.9倍、「平行配置ー平行接続」の電流比は 2.5 ~ 2.6倍 となっており、面積が 2倍のときの電流比は 2.5倍以上あることがわかります。
そして、この2つはどちらも誘起電流が増加する組み合わせなので、受信レベルの向上が期待できます。

もう一方の組み合わせ「8の字配置ー平行接続」の電流比は 2.9倍、そして「平行配置ークロス接続」の電流比は 2.6 ~ 3.7倍 と電流比が大きな値になっていますが、どちらも誘起電流が減少する組み合わせなので、受信レベルの向上は期待できそうにありません。


直径1m ループ単体と、0.67倍の面積を持ったループの組み合わせとの比較

下表は、直径1m ループ単体の誘起電流の大きさに対して、直径0.58m ループを2つ組み合わせたときの電流比を計算したものです。
上の表から順に

  • 「平行配置ー平行接続」の電流比。
  • 「平行配置ークロス接続」の電流比。
  • 「8の字配置ー平行接続」と「8の字配置ークロス接続」の電流比。
です。

誘起電流が増加する組み合わせの「8の字配置ークロス接続」の電流比は 1.4倍、「平行配置ー平行接続」の電流比は 1.2 ~ 1.3倍 です。

この2つの組み合わせは、直径1m ループの面積に対して僅か 0.67倍の面積ですが、直径1m ループと同等以上の電流比になることがわかります。そして、この2つはどちらも誘起電流が増加する組み合わせなので、直径1m ループと同等程度の受信レベルが期待できます。

誘起電流が減少する組み合わせの「8の字配置ー平行接続」の電流比は 1.4倍、そして「平行配置ークロス接続」の電流比は 1.2 ~ 1.8倍 と電流比が大きな値になっていますが、どちらも誘起電流が減少する組み合わせなので、受信レベルの向上は期待できそうにありません。



今回のまとめ

WSMLループ・アンテナ は、ループの誘起電流を増やす工夫がアンテナ感度の向上に繋がるという考えから、 このループ・アンテナをコイルの側面から考察してきました。

前回の考察を簡単に纏めると、

  • 誘起電流とS/L比
    • S/L比を大きくすると、ループの誘起電流が増加する。
    • S/L比が大きいループとは、「面積」が大きくて「インダクタンス」が小さいループである。
  • インダクタンスを低減する工夫
    • インダクタンスの低減は、S/L比を向上させ誘起電流を増やす。
    • インダクタンスの低減には、線径の太い導体あるいは表面積が大きい平板状の導体を使うと効果がある。
    • ループの巻き数は1ターンが良い。(インダクタンスは巻き数の2乗に比例して大きくなる。)
    • ループの面積を増やすよりも、インダクタンスを低減する工夫のほうが効率が良い。
  • 表皮抵抗
    • 導体の材料に銅やアルミニウムを使った場合の表皮抵抗は、表皮抵抗 RS よりもループのインピーダンス XL のほうがかなり大きいので
      XL >> RS となり、表皮抵抗がループ電流に与える影響は比較的少ない。
ここまでが前回の考察です。

そして今回の実験でわかったことは、

  • ループの並列接続
    • 並列接続したループは、インダクタンスの低減効果が大きい。
    • ループを並列接続したときのインダクタンスは、相互インダクタンスの影響を受ける。
    • その要因は、ループの配置や接続方法とループ間の結合状態(和動的・差動的)で磁束や誘起電流の方向が決まり、相互インダクタンスに影響を与える。
    • ループを並列接続したときの誘起電流の大きさは、ループの配置や接続方法の影響を受ける。
    • ループの「平行配置」は、接続方法によってループの結合状態が大きく変わる。
    • ループの「8の字配置」は「平行配置」よりもインダクタンスが小さく、電流比が大きい。

    • 2つのループが和動的に結合して誘起電流が増加するのは、「平行配置ー平行接続」と「8の字配置ークロス接続」の組み合わせ。
    • 2つのループが差動的に結合して誘起電流が減少するのは、「平行配置ークロス接続」と「8の字配置ー平行接続」の組み合わせ。

  • 2つのループと合成する誘起電流の方向
    • 2つのループを組み合わせたときの誘起電流の大きさを決める要因は、ループの面積とインダクタンス値( S/L比 )だけではない。
    • 2つのループを組み合わせたときの誘起電流の大きさは、 合成する 「誘起電流の方向」 で大きく変わる。
    • ループ間の結合状態(和動的・差動的)で誘起電流の方向が決まる。
ということです。

その結果 「平行配置ー平行接続」 は、原典の 「パラレル・クロスド・ループ」 の組み合わせである 「8の字配置ークロス接続」 と同じように、誘起電流が増える組み合わせであることがわかりました。

並列接続したループの効果はこのようになります。
シングル・ループの面積を 2倍 に増やしても、電流比は 1.3倍 しか増えませんが、2つのシングル・ループを並列接続して面積を 2倍 にすると、電流比は 2.5倍 以上得られる。
(「8の字配置ークロス接続」なら 2.9倍、「平行配置ー平行接続」なら 2.5 ~ 2.6倍。)

2つのシングル・ループを並列接続した面積が、直径1m ループの面積の 0.67倍 しかなくても、直径1m ループと同等以上の電流比が得られる。
(「8の字配置ークロス接続」なら電流比は 1.4倍、「平行配置ー平行接続」なら電流比は 1.2 ~ 1.3倍。)


次回は、これまで考察したことを、実際の受信レベルを比較して確めてみようと思います。

続きはこちら: WSMLアンテナ:ループの受信信号レベルを比較する