2012年8月23日木曜日

アンテナ・アンプを製作

に続いて、WSMLアンテナのアンテナ・アンプ・ユニットを作りました。

アンテナ・アンプへの電源供給方法は同軸重畳です。この部分に前回製作した DC 重畳ユニットを使います。 トランジスタは手持ち品の PN2222A の中から hFE を選別して値を揃えたものを使用しました。 出力トランスは FT50-#77 の 5 回巻きを使っています。 また、オリジナルの回路図に入っている、入力部の FM 放送対策用 LPF は省略しました。アンプ部の部品配置はバランスを考慮して対象配置を心がけました。汎用の穴あき基板を使用しているので、べたグラウンドの部分は銅箔テープを使っています。



差動部分のバランス調整

拙宅のロケーションでは、そこそこの強電界のため WSML アンテナを IC-R75 に接続すると下記のような受信レベルになります。

  • KBS京都    1143kHz   10kW S9+50dB
  • NHK京都第1 621kHz    1kW S9+40dB
  • NHK大阪第1 666kHz 100kW S9+40dB
  • NHK大阪第2 828kHz 300kW S9+40dB

このような状態では相互変調ひずみによって、あちらこちらにオバケが出現します。そこで、アンテナ・アンプのバランス調整を行い、この相互変調ひずみを可能な限り小さくする必要があります。

この調整は、おじさん工房の汎用実験基板APB-1のアプリケーションのひとつの、信号発生器を使った DSB 変調出力によって行ないました。

元々この DSB 変調出力は 2 信号特性を測定するものでは無いため、ある程度のスプリアスを含んでいます。今回の調整作業は IM3 の測定が目的で無いことと、手持ちの環境内で可能な範囲と割り切って IM3 のレベル調整ができればよいと考えました。

APB-1 の DSB 変調出力では出力レベルの調整ができません。この場合は外付けアッテネータを使用します。次の図は 20dB アッテネータを経由した出力です。

この出力を使って 3 次相互変調ひずみ(IM3)を調整していきます。

SG 出力を、即席の 20dB アッテネータとトランスを経由して WSML アンテナ・アンプに接続しています。

基板上のバランス調整用の VR を調整して、IM3 が最小になるポイントに調整します。

上記 4 局の放送周波数に対する相互変調の組み合わせと高調波周波数の表を作り、それぞれの受信レベルを IC-R75 を使って調べてみました。

バランス調整を行なった結果では IM3 は概ね低減できているようです。今のところ地元局の 2 次高調波がまだ大きい状態です。特に 1143kHz の KBS 京都はスーパーローカルなのでとても強力です。これは今後の課題です。



アンテナの設置状況

ループ・アンテナとアンテナ・アンプは、このように設置しています。アンプ部の雨除け用として 100 円タッパーを被せました。



参考

2012年8月16日木曜日

Active Antenna DC Power Injector

アクティブ・アンテナ用 DC 重畳ユニットの制作。

アクティブ・アンテナはアンテナ・アンプを動作させるための電源が必要ですが、この DC 電源の供給方法は 2 通りあります。ひとつは、受信用同軸ケーブルに重畳して供給する方法。もうひとつは、受信用同軸ケーブルとは別の電源専用ケーブルを使う方法です。一般には同軸ケーブルに重畳する方法が多いように思います。

  • 電源専用ケーブルを使う場合

    電源供給専用のケーブルを使う方法の利点は、電源ノイズが受信信号へ回り込む影響を抑えられることでしょう。この方法の欠点は電源ケーブルを新たに配線する必要があることです。そのため新たに電源ケーブルを通す空間の確保や、電源ケーブル配線の引き回しの手間などの他、電源ケーブルの購入費用等が発生します。

  • 電源を同軸ケーブルに重畳する場合

    電源を同軸ケーブルに重畳する方法の利点は、追加コストを抑えて配線の手間を省けることでしょうか。 コストだけを考えると手っ取り早く同軸ケーブルに重畳するのが良いのですが、電源ラインと受信信号が同じ配線を通ることになり電源ノイズの影響を受けやすくなる欠点があります。そのため電源は低ノイズのシリーズ電源が好まれます。

この電源を自作する場合、「中古の トランス式の AC アダプタ 」と「 3 端子レギュレータ」を使うのが手軽(私の場合は)です。しかし残念なことに、最近の AC アダプタのほとんどはスイッチングタイプです。今となってはトランス式の AC アダプタを入手するのにも苦労します。

また通販の場合は、重いトランスのために送料が余分に必要になることもあります。そこで、直接店頭へ買いに行くと帰りの荷物がとても重たくなります。さらに新品のトランスは、容量の大きいものほど高価なので手軽に手が出せません。

そんなときに、「 これ、使えないかなぁ 」と モッタイナイお化け の囁きが聞こえてきました。 それは今では使わなくなった古い ThinkPad の AC アダプタ です。この定格は 16V 4.5A なので、ちょうど手ごろな電圧です。さらに電流容量も十分すぎるほどあります。

そんなわけで、このスイッチングタイプの AC アダプタを有効利用できるように、ノイズフィルタを組み込んだ DC 重畳ユニットを作ってみました。

使い方は、スイッチングタイプの AC アダプタを DC 電源ジャックに接続します。 BNC 端子にアクティブ・アンテナを接続。M 型端子に受信機を接続します。また、DC 電源ジャックの形状に合わせて AC アダプタの出力プラグを交換しました。



回路

電源ノイズを広帯域で低減させるために、ここでは DC 電源ラインから進入してくるノイズを 2 段構成で減衰します。はじめは村田製作所のブロックタイプ・エミフィルで減衰させ、次に LC フィルタで減衰させます。このあと DC 電圧を同軸ケーブルに重畳させてアクティブ・アンテナに供給します。アクティブ・アンテナ側では 3 端子レギュレータを使った安定化回路を組み込んでいます。

アンテナからの受信信号は、同軸ケーブルを経由して DC 重畳ユニットに入ってきます。コンデンサで DC 電源を分離した後、アイソレーション・トランスを経由して受信機へ出力します。



特性

次の図は、DC 電源ジャック ― アンテナ端子間の減衰特性です。
この特性図から、アクティブアンテナに供給される電源に含まれるノイズが、どの程度低減できるのか分かります。 18 MHzに変なディップ点がありますが 30MHz 以下では概ね 50 dBの減衰が得られました。


次の図は DC 電源ジャック ― 受信機出力端子間の減衰特性です。


次の図は アンテナ端子 ― 受信機出力端子間の挿入損失特性です。
20 MHz以下では -1 dB以内に収まっています。

受信機出力側のアイソレーション・トランスについては、いくつかのコアを使って試してみました。使用したコアは「FT50-#43」「FT50-#75」「FT50-#77」です。その結果、特性が良かった「FT50-#75」を今回使うことにしました。巻き線方法については、撚らずに揃えて巻いたものが、ほんの少しですが特性に良い結果がでました。また、巻き線の撚り具合にバラツキがあると特性に影響することが分かりました。あまり深く追試できていませんが、撚る場合は UEW 線を均一に密結合させるように撚ってやると、もう少し特性を改善できるかもしれません。


次の図は アンテナ端子 - 受信機出力端子間のコモンモード減衰特性です。



実際の電源ノイズの減衰効果

次の図は、実際に AC アダプタを接続した状態で測定した、各部分のノイズ減衰特性です。

ノイズの状態を比較できるように、入力側と出力側のノイズ特性と、参考としてシリーズ電源(トランスと 3 端子レギュレータで構成された電源)を接続したときのノイズ特性を並べています。

  • 図上段は・DC 電源ジャック部分でのノイズ。
  • 図中段は・受信機出力端子部分でのノイズ。
  • 図下段は・(参考として)シリーズ電源(トランスと 3 端子レギュレータ)を接続したときの、受信機出力端子部分でのノイズ。

図上段はノイズフィルタを通過する手前の部分です。DC 電源ジャックに接続した AC アダプタのスイッチングノイズが、グラフ全体に広がっていることがわかります。

図中段はノイズフィルタ通過後の特性です。この出力側では 2 段構成のノイズフィルタによって電源ノイズが減衰されています。若干ですが 200 kHz 以下にスイッチングノイズが残っていることがわかります。いっぽうで 200 kHz 以上では、シリーズ電源を接続したときと同じくらいに電源ノイズが減衰されていることが分かります。このことから、スイッチングタイプの AC アダプタを使用しても、スイッチング・ノイズを概ね減衰できることが確認できました。

この結果なら、ノイズの多いスイッチングタイプの AC アダプタでも、シリーズ電源の代わりとして使うことができそうです。



実際の受信レベルを比較

アクティブアンテナを接続した状態の受信レベルを測定してみました。

それぞれの図では比較のため、シリーズ電源を接続した場合とスイッチングタイプの AC アダプタを接続した場合の受信レベルを表示しています。 図上段はシリーズ電源を接続した場合。図下段はスイッチングタイプの AC アダプタを接続した場合の、それぞれの受信レベルです。


0 to 500 kHzの受信レベル。

150 kHz以下に残っているスイッチングノイズが気になりますが、40 kHz, 60 kHzの JJY の受信には問題ありませんでした。


0 to 2 MHzの受信レベル。

中波放送の受信への影響は無いようです。


0 to 30 MHzの受信レベル。

短波放送の受信への影響も無さそうです。



まとめ

ノイズだらけのスイッチングタイプの AC アダプタでも、適切にノイズ対策をすることで それなりに 普通に使えそうなことが分かりました。特に 200 kHz以上ではシリーズ電源とほとんど区別できないように思います。

ここで使用した村田製作所の ブロックタイプ・エミフィルのカタログの中の実装情報では、このフィルタを効果的に使用するためのポイントがいくつか書かれています。その中の「グラウンドの取り方によっては、フィルタ自身の持つ特性が得られない場合がありますので、」の解説では、推奨基板パターンの使用や、スルーホール基板の使用を奨励しています。今回のフィルタ回路もグラウンドパターンを工夫することで、もう少し特性の改善をできるかもしれません。



謝辞

今回の制作では、シエスタさんの 「ガルバニック・アイソレータの製作と使い方(暫定版)」 と Clifton Laboratoriesの 「Z1203B Rev 02 Manual」 を参考にさせていただきました。ありがとうございます。おじさん工房の APB-1 も大活躍です XD